【同一労働同一賃金】ガイドライン見直し案
労働政策審議会において「同一労働同一賃金ガイドライン」の見直しに関する報告書案が示されました。
今回の見直しは、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者といった多様な働き方が定着する中で、より実効性のある均等・均衡待遇の確保を目的としたものです。
本記事では、報告書案のポイントを整理しつつ、企業実務にどのような影響があるのかを社労士の視点で解説します。
見直しの全体像
今回示された報告書案では、主に次の4つの観点から整理が行われています。
① 均等・均衡待遇の考え方の明確化
ガイドラインの解釈が分かれやすかった点について、より具体的な考え方を示す方向性が打ち出されています。
特に、福利厚生の取扱いや立証責任の考え方については、今後のトラブル予防の観点からも注目ポイントです。
② 待遇差に関する「説明」の在り方の見直し
非正規社員から説明を求められた場合に、
- どのような内容を
- どのような方法で
説明すべきか、という点について整理が進められています。
今後は、「説明できる制度設計」そのものが、より重要になると考えられます。
③ 公正な評価とキャリア形成の促進
単なる待遇是正にとどまらず、
- 正社員転換
- キャリアアップ支援
- 多様な正社員制度の普及
といった、中長期的な人材活用を見据えた視点が盛り込まれています。
④ 行政による履行確保
制度を「作るだけ」で終わらせないための、行政の関与の在り方についても整理されています。
実務上のポイント①|派遣労働者の賃金決定ルールの見直し
特に実務への影響が大きいのが、派遣労働者の待遇決定方式に関する部分です。
報告書案では、一般賃金の算定に用いる統計調査について、従来の調査から、より実態に近い調査へと見直す方向性が示されています。
また、労使協定を締結する際には、
- 物価や賃金動向を踏まえた十分な協議
- 一般賃金が下がった場合でも、安易な引下げは行わない配慮
- 不利益変更に該当する場合は、労使合意が必要であること
といった点を踏まえる必要があるとされています。
派遣元企業にとっては、労使協定の中身がこれまで以上に重要になるといえるでしょう。
実務上のポイント②|無期雇用フルタイム労働者の位置づけ
今回の報告書案では、無期転換後のフルタイム労働者について、新たな法改正は行わず、既存の枠組みの中で対応する考え方が示されています。
ただし、
・就業実態に応じた均衡の考慮
・無期転換時の労働条件の説明
においては、同一労働同一賃金ガイドラインの趣旨を踏まえるべきとされています。
無期転換ルールへの対応が形式的になっている企業にとっては、今後、説明内容や処遇設計を改めて見直す必要が出てくる可能性があります。
実務的な視点
今回の見直し案から読み取れるのは、「形式的に制度があるか」ではなく、合理的に説明でき、公正に運用されているかがより重視されるという流れです。
- 賃金・手当の設計
- 評価制度の考え方
- 説明資料の整備
これらを一体で見直すことが、今後のリスク対応と人材定着の両立につながります。
今後に向けて企業が準備すべきこと
同一労働同一賃金ガイドラインの見直しは、すぐに罰則が強化されるものではありません。
しかし、将来の是正指導や紛争リスクを見据えた「予告編」ともいえる内容です。
同一労働同一賃金への対応は、リスク対策であると同時に、人材定着・採用力強化にもつながるテーマです。
制度の点検や見直しをご検討中の企業様は、自社の実態に即した整理ができているか、一度確認してみてはいかがでしょうか。
当事務所では、同一労働同一賃金への対応について、単なる制度説明にとどまらず、「実際に運用できる形」でのサポートを行っています。自社の実態に合った進め方を一緒に整理していきましょう。


